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大阪高等裁判所 昭和33年(ラ)351号 決定

株式会社興紀相互銀行

事実

抗告人Aは昭和二二年五月一二日訴外Cから本件土地建物を買受け、長男である抗告人B名義を以て所有権取得登記を経由した上、抗告人ABのほか家族六名と共に之に居住して来た。而して右土地家屋に付ては、昭和二九年二月二六日興紀相互銀行のため債権極度額金一〇〇万円の根抵当権設定登記がなされ、次で抗告人Aは昭和三〇年一二月六日同土地建物を訴外Dに売却し、その登記手続をなした上で、あらためて同人から之を賃借して引続き居住し、昭和三一年六月二八日本件競売申立があり、競落許可決定がなされ、抗告人Aは之に対して即時抗告をしたが、棄却され、ABに対し不動産引渡命令が出された。そこで抗告人ABは右Dから競売申立以前に賃借しており、この賃借権は競売期日の公示にも記載されているので、競落人にも対抗できるから、引渡命令を発すべきでないとの理由で即時抗告をしたが、次の理由で棄却されたものである。

理由

抗告人ABは、若し右土地家屋が競売申立の日まで引続き抗告人Bの所有名義に属していたとすれば、競落許可決定が確定し、代金納入により不動産所有権が競落人に移つた場合は、当然占有権原を失い、之を明渡すべき義務を負担した筈である。然るに、競売申立登記以前に之を他に譲渡した上あらためて之を賃借しておけば、抵当権者若しくは競落人に賃借権を以て対抗し得るものと解することは、抵当権者に不当な負担をかける結果を生ずるので之を採ることはできない。換言すれば、元来所有権以外に抵当権者に対抗し得べき占有権原を持たなかつた抗告人等が、たとえ右不動産を第三取得者から賃借したとしても、かかる賃借権は純然たる第三者の得た賃借権と異り、民法第三九五条第六〇二条により抵当権者に対抗し得る賃借権に包含されないものと謂うのほかはない。従つて抗告人ABの主張は失当であり引渡命令には何等違法の廉は無い。

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